99/5/8〜9 南アルプス周遊ツーリング  戻る

5/8 川崎→静岡→井川→天竜スーパー林道→しらびそ峠→中川村
 久々の泊まりツーリングだ。しかし、前の晩になっても、キャンプ道具が全然用意できてない。面倒くさくて、用意する気にもならず、「え〜い、今回は、シュラフだけで行ってまえ!」ということで、シュラフだけ持って、軽装備のツーリングとなった。カブは、慣らし期間を終わったばかりである。思う存分、エンジン回してあげよう。
行き先は、南アルプスの南麓から西麓へかけての地域。東京方面からだと、東麓は行きやすいのだが、南や西は、なかなか行けない。新しいカブで、久しぶりに走ってみよう。

 ドーンと、静岡まで東名高速で一気に行く。なんて、楽はできないので、ひたすら地を這って行く。 川崎市宮前区発5:09→R246→沼津からR1→静岡。土曜日なのに、思いの外、トラックが多い。7:10 R246長泉町で給油。沼津からR1へ。まだ早い時間なのに、R1は車が多く、げんなり。しばらく走ると、スムーズに流れ出す。流れ出すと、カブには速すぎるスピードで、これまた大変。道なりに走っていると、いきなり自動車専用道路の標識。静清バイパスは、通れないのか! 迂回路などの表示もなく、間に合わせで左折したが、道に迷った。その後、静岡とか浜松とかの道路標示通りに行くと、またバイパスに出たりして、かなり苛立つ。虐げられているな、原付は…。
 なんか、新カブ、前カブより高回転域が回らない。力がない感じがする。前は上れた坂が、上れない感じだ。キャブのセッティング変わったのだろうか? 単に、調整ができてないだけかも知れないけど。

 静岡から、梅ヶ島温泉方面へ向かう。移動区間が終わり、やっと、ホッとする。止めていた呼吸を、何時間ぶりかにした感じ。井川方面への道へ。道幅が狭い、うねうねとしたコーナーが続く。登りでもあり、カブでは、ちょっと走りづらい。ただ、ほとんど車が走ってない。自分のペースで存分に走れそうだ。今回は、こんな道がほとんどだろう。所々にある集落では、茶摘みが行われている。狭い山峡に作られた茶畑なれど、見事に手入れされていて感服する。 ぐんぐんと、山中に入り込む。口坂本温泉を過ぎて、9:34大日峠(195km)で一服。静かな峠。ツーリングに出た実感がわいてくる。
 井川へ下る。雪を被った、南アルプスの巨大な影が見えてくる。その手前、ダム湖の向こうに見える井川の集落が、深い緑の中に輝いて見える。井川駅が気になって、ちょっと探索。駅と行っても、ミニ列車の駅である。その後、井川の集落をピストンして、接阻峡沿いを南へ走る。狭い峡谷の中腹を走る道。南アルプス近辺は、山はでかく、谷は深い。スケールが大きいのだ。この峡谷も壮大なスケールだ。景色を眺めながら、ゆるゆると走る。山深い。途中、直前をサルに飛び出されて、ちょっとパニック。

 寸又峡温泉には寄らずに、千頭駅を過ぎて、R362を南へ。山深さはなくなり、明るく開けた感じになる。日にちと時間さえ合えば、走るSLを見られるのだろうけど、今回は無理。R362を春野町方面へ。ブラインドの狭いカーブが続き、走り辛い。特に左カーブでは、センタースタンドが大きな音を立てて擦るので、ぎこちない走りになる。淡々とカーブを曲がり、自分の世界に入り込んでいく。現実から遊離して、自分の脳と対話してるような、夢を見てるような、そんな感じだ。
ガソリンがやばくなるも、スタンドがある感じがしない。ちょっと焦るも、ペースは変えずにいく。気田の集落で給油。狭い道の反対側にある雑貨店の中に気を送ると、やはり、そこのおばちゃんが給油しに来た。のんびりした接客も、こういう所だと気にならない。美しい気田川沿いを、脇見運転。よそみ運転。

 秋葉神社駐車場前の河原で休憩。(278km) 気田川は、いい川だ。心の底から、ほっとする。 ぼーっとしながら、この川でカヌーが沈した時のことを思いだす。それをきっかけに、記憶の底に沈んでいた、さまざまな事を思いだす。……。
 12:00秋葉神社下社(288km)に詣でる。火難よけで知られる社。子供の頃、家の火を使う場所には、ここの御札が貼られていた。それと同じものを探したが、どれも違うような感じだった。
 気田川沿いを西へ向かう。川は清流のまま、ゆったりと流れる。ありそうで、あまり見られない景色である。左に見えるのが天竜川に変わって、しばらく走ると、天竜スーパー林道起点である。はるばる来たぜ、天竜林道。 とりつきの登りがキツくて、1速まで使う。せっかくなので、秋葉神社上社にも詣でる。社は、巨大な木々に囲まれた、下界を見下ろす高みにある。以前来たときとは、建物関係が変わっているようだ。黄金色の鳥居が、真上からの光線に共鳴して唸りを上げているかのよう。空気の密度が濃いような、気持ちの良い場所だ。

 天竜スーパー林道は尾根を走っているので、上ってしまえば、アップダウンも少なくて、カブでも走り易い。路面の荒れは少ないのも、カブ向きか。まぁ、ほとんど舗装されてしまったけど…。尾根を走っているだけに、景色が素晴らしい。周りの谷が深いのが、より高度感を出している。土曜というのに、バイクとは1台すれ違っただけ。車も少ない。時折すれ違う対向車は、やはりカブには驚いているようだ。
山住峠で休憩。山住神社を覗いてみる。"○○家"と紙が貼られたマイクロバスが止まっていて、祭殿で祝詞を上げていた。水窪ダム(353km)への下りは、ほとんど未舗装。せっかくエッチラと稼いだ高度を、一気に放出。尾根から一転、木々に囲まれた谷底の道を走る事になる。鬱蒼とした森、美しい沢。
 北の南信濃村へ向かう。狭い山道。すれ違う車もない。カブ一つ、山の中を行く。現実感がなくなり、この山の中の街道を行くと、江戸以前の宿場に辿りつくような感覚に支配される。 14:50兵越峠 標高1168m。ヒト気がなく、寂しい雰囲気。
 15:13、R418との交差点付近で給油。前方の空が真っ暗だ。スタンドの女性に聞くと、「雷が鳴っているから、通り雨があるかも」とのことだ。予報では、土日とも絶好の行楽日和ということだったが、そうは行かないようだ。山峡の集落に、『街道』『宿場』をひしひしと感じる。ちょっと、異空間に迷い込んだ雰囲気。東京方面とは、隔絶の感がある。ちなみに、天竜スーパー林道から南信濃村にかけては、カブの川崎ナンバーを見ても、総じて反応がない。「かわさき。 ふーん。」ってな、感じだ。軽装のカブと川崎が結び付かないようだ。
ちょと行くと、少し前まで雷雨が降っていたらしく、路面がビショビショだ。積乱雲からの冷気が吹き込み、寒い。寒さに震えながら、「こんなの抜けてしまえば、それまでだ」と、飛ばす。気が付くと、曲がるべき道を、遥かに過ぎていた。あれま、ということで、せっかく抜けた、濡れた路面を戻って、15:57下栗(410km)地区を目指す。ここは、だいぶ前に通ったことがあるのだが、記憶から消えている場所。最近では、"日本のチロル"と広報されている。のそのそと、しばらく坂道を登る。下栗の集落は、南アルプスと対峙する急斜面に、へばりついている。急斜面は、肉眼では底が確認できないほどの、深い深い谷へと落っこちている。気を抜くと、谷へ落ちてしまいそうな感じだ。人が代々生活してきた景観には、圧倒されるものがある。ここで長いこと暮らすと、崇高な人間になれそうだ。
こんな小さな集落にも、カブは直ぐに馴染んでしまい、風景の一部となる。こういう所では、顔をじっと見つめられる。『 カブ = 地元の人間 = 顔見知り 』という図式で、知り合いの誰なのかを判別しているようなのだ。こちらが挨拶をすれば、かならず挨拶してくれる。懐かしい知り合いに会えたような、不思議な感覚である。

 集落を上へ抜けると、しらびそ峠への道となる。かなり寒い。ここには、春はまだ来ていない。雄大な風景の中を、ちっぽけなカブが走る。 しらびそ峠付近は未舗装で、標高も高く、景色も良い。山岳林道の極みみたいな所である。そんなわけで、景色の良いスペースには、これ見よがしの四駆車が停車している。そんな、悦に入っている四駆野郎を撃破しながら、カブは走る。 『本日 川崎発』のノボリを背負うと、一層効果があるかもしれない。四駆で来れるぐらい、あたり前のこと。
突然、巨大なホテルが出現して驚く。こんな所に…。車もたくさん止まっている。ビックバイク軍団が、「ついに来たよー!」「あそこは、やばかったぜぃ」などと盛り上がっていた。カブの出現が、彼らをちょいとシラケさせた感あり。
16:30しらびそ峠(424km)着。標高1833m。(尾根を挟んでの峠であり、通って来た尾根筋の道のピークではない。) 周りの深い谷がそれ以上のスケールを出している。雪を被った山々の存在感が強烈である。積乱雲が居座っていて、すべての山が見えないのが残念だ。

 地蔵峠 標高1314m を越えて、大鹿村へ。ホント、交通量がない。今日は、自分の世界に入りっぱなし。 そのまま南アルプス西麓を北上するつもりだったが、分杭峠が通行不能の表示あり。迂回して小渋湖へ出る。ちょうど、宿泊候補地の陣馬形キャンプ場が近いので、そちらへ向かう。このキャンプ場は、避難小屋があって、数百円で泊まれたはず。シュラフだけの今回には、実にgoodなのだ。(テント持ち込みは、2000円とバカ高) 折草峠から、ガツガツのダートを走る。途中の牧場で、キツネの親子がじゃれながら走っていた。なんとも爽快そうだ。こちらに気づいて逃げ出したが、鳴き真似をすると、立ち止まってこちらを伺っていた。18:08陣馬形キャンプ場着。

 キャンプ場は、駒ヶ根の町を見下ろし、中央アルプスを正面に眺める場所にある。予想通り、まだ営業してなかった。よって、避難小屋も開いてないし、水も出ない。もう、"ビール喉ごしモード"に入ったので、走る気にはならない。まあ、水は持っているので、何とかなるだろう。屋根のあるベンチを、一夜の宿としよう。
誰もいないキャンプ場で、夕暮れを楽しむ。空が広い。アルコールを飲みながら、夜景を楽しもうと思ったが、風が吹き抜けて、めちゃくちゃ寒い。早々にシュラフに潜り込んで、星を眺めながらウトウトと眠りにつく。ちと、寒かった。走行473km


5/9 中川村→入笠山→白州塩沢温泉→R20→R246→川崎
 翌朝、朝日を浴びて目覚める。いい天気。キャンプ場の脇の、ちょっとしたピークから西側を眺める。目の覚める絶景。正面に雪を被った中央アルプス、眼下には、箱庭の様な町々。水の張られた水田に青空が映り込み、まるで、空に浮かんだ町に見える。幸福感が全身に広がって、まろやかな気分になる。今日は、のんびり行こう。
 陣馬形キャンプ場5:30発。昨日キツネが走っていた牧場を、期待を込めて眺めてみる。ん! なんだ? 双眼鏡に映ったのは、アナグマだった。ユーモラスな動き、小さな耳、つぶらな瞳、なんて lovely なんだ。 向こうはこちらに気づかずに、10mくらいまで近づいて来た。あまりのことに、興奮気味。突然、こちらに気づいて、慌てて斜面を下りだした。不器用に走る姿が、また愛らしい。 折草峠までの未舗装路では、シカに遭遇。早朝は、こんなことが多い。カブのエンジンが静かなのも、有効だ。
駒ヶ根カントリークラブ近くの林道を走る。地図には、景色が良いとあったが、イマイチだった。下りで、枝林道からキャンプスタイルのオフロードバイクが来た。「こんなに、朝早く… キャンプだね。(^^)」とフレンドリーな気分だったが、向こうは、地元の人間と思ったに過ぎないだろう…。
そろそろ給油しなければならないが、まだ早過ぎるので、分杭峠方面へふらふらと走ってみる。貴重な朝の時間を、贅沢に過ごす。 7:15高遠で給油して、町道高峰線を上る。尾根筋を走る未舗装。景色も良い。朝日の当たる場所で、一服。冷えた身体を暖める。
 のんびり、とろ〜り走る。少し標高を上げると、春が来たばかりの雰囲気になる。いい感じ。カラマツは芽吹いたばかり。思ったより、距離がある。8:43入笠山の頂上下着。標高も高く、風が冷たい。熱いコーヒーを販売機で買おうとしたが、HOT物はすべて売り切れていた。
富士見側に下る。しばし走った所に、温泉があった。迷わず、入湯。白州塩沢温泉。入浴料600円。空いていた。冷えた身体が、ジンジンと暖まる。野宿後の温泉は、格別だ。温めの源泉に浸かって、たっぷりとくつろぐ。幸せ。 上がろうとしたとき、のぼせ気味な事に気づく。水を浴びて、頭と身体を冷やす。無事クリアと思ったが、着替えの途中で立ち眩んでダウン。しばらく、横になって回復を待つはめに…。やはり、限度を超えてはいけませぬ。 風呂上がりに、アイスクリームを食べながら、流れていた『いつみても波瀾万丈・杉田かおる』を見る。ツーリング中にTVを見ててもしょうがないとは思いつつも、番組にハマって、なかなか出発できなかった。八ヶ岳方面も走ろうかと思っていたが、そんな気は失せて、だらーと帰ることにする。この時間なら、道も空いているし、早い時間に帰れる。10:30発。
 R20を相模湖まで。拍子抜けするほどスムーズに流れた。相模川沿いからR246へ出て、14:17帰宅。本日走行286km。 いい時間に帰れたので、日曜の午後を、のんびり過ごせた。軽装だと、片づける物もなくて、非常に楽だ。これは、クセになるかも…。


総走行759km 燃費50km/l程度 ガソリン代1450円 温泉代600円

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