99/7/21 東北ツーリング 2日目  戻る

焼石岳登山→大沢温泉→遠野→荒川高原→早池峰山麓

 朝3時過ぎに起床。時差が抜けない(笑)。テントから顔を出して、天気の確認。 曇り。星は見えない。テントはそのままで、焼石岳登山へ向かう。
3:24発。昼間でも寂しい道は、まったくの暗黒である。 ヘッドライトとテールライトが届く範囲が、暗闇に浮いているだけ。暗闇は、妄想を生んで、やけに後ろが気になる。 前方でキラリと光ったのは、キツネ親子の目であった。短い足で、懸命に走る子ギツネが可愛らしい。 しばらくすると、濃い霧がかかって来て、わずか先の路面も見えない。とてもスピードを出せる状態でなく、スピードを落として運転に集中。夜霧の中は現実感覚に乏しく、夢の中のよう。意識をしっかり保たないと、真っ直ぐに突っ込んでしまいそうだ。 徐々に空が明るくなり、緊張もほぐれる。峠のトンネルを抜けると、霧はなく、明けゆく空がドーンと広がった。

 4:03湯沢側三合目登山口着。つぶ沼から22km。まだ星の支配下にある森は、霊気に満ちていて、立ち入りを拒まれている感じがある。そんな薄暗い森に踏み込むには、気合が必要。ヒト気のない山中を深く分け入る。見晴らしの利く小高い場所から眺めると、山頂は谷を越えた先に見える。思ったよりも遠いことに驚くが、そこに至る緩やかな谷を歩けると思うと、心が躍る。緩やかな広葉樹の森が実に素敵なのだ。沢まで下ってから、再び登りになる。そのうちに、樹林は切れ切れになって、草に覆われた道になる。濡れた草が当たって、ズボンがびしょ濡れになる。雨具を履くのも不快なので、そのまま行くが、濡れたズボンから靴下へ水が浸透して、靴の中までも濡れてしまった。標高を上げるにつれ、霧がかかる。天気が良いのか、悪いのか判らない。白い視界の中に、可憐に咲く花々が賑やかだ。
狭い登山道をのろのろと登って、ひょいと開けた場所に出た。!!!!!。 そこには、輝くような黄色の世界が広がっていた。霧がかかって、実に幻想的。別世界に迷い込んだかのようだ。

幻想的な 黄色いお花畑
 景色を存分に楽しんでから、一気に頂上を目指す。大きな木がなくなって、登山道は岩の上を辿るようになる。霧に加えて、風が強く吹き付ける。濡れたズボンが身体を冷やす。あまりいい状況ではない。7時前になって、ニュースと天気予報を見るために液晶TVを手に持ちながら歩く。遮る物がないので、電波はガンガンに入る。ポイントだけ映像を見て、あとは聞くだけ。「こういうの、軽蔑していたよなぁ…」なんて思って、笑ってしまった。 天気予報は、立ち止まってじっくり見る。梅雨前線は、佐渡のラインにあって、佐渡では被害が出るような雨が降っている。その前線が掛かっている山形市は雨。その雲の切れ端が、ちょうど"ここ"に掛かっているようだ。なるほど、確かに今は雲の中にいる。宇宙からの目で見ると、実に分かりやすい。今後のメッシュ予報でも、晴れそうにない。関東のローカルニュースでは詳細なメッシュ予報があるが、さすがにそこまでの予報はしてくれない。
 ほどなく、頂上に到着(7:33)。風強く、流れる霧に囲まれて、見晴らしは無し。ぽつり、ぽつりと雨も当たる。片隅で、初老の男性が大きな声で独り言を言っている。否応なく、奥さんと携帯電話で話しているというのが分かる。時代は変わったものだなぁ。携帯電話があれば、遭難して事切れそうな時も、別れの挨拶ができそうだ。長野から来た男性で、別の登山口から登ったとのこと。
霧は晴れそうにないので、軽く休憩して下山する。しばらくの間、雨に降られて、傘をさして歩いた。かなり下った所で、数名の登山者とすれ違う。山中で出合ったのはそれだけ。深田百名山でないので、静かな山である。麓まで下ると、上の雨がウソのようで、晴れに近い薄曇りであった。10:05登山口着。 美しき東北の山を味わって、とても満ち足りた気分。

彩り豊かな花々

 10:15発。キャンプ場に向かう。荷物も軽く、ここぞとばかりにワインディングを堪能する。なにせ、車など走ってない。ブナの森を、風のように駆け抜ける。ある左コーナーで、アナグマが食事に夢中になっていた。その目はイっていて、恐ろしい顔。こちらに気づいて逃げ出したが、カブを止めて見たら、直ぐ横の草の間にいた。目がイっているのが、元々の顔だったようだ。
10:47つぶ沼キャンプ場着(44km)。こちらは、晴れている。昨夜のキャンパーもいなくなって、独占状態。撤収しながら、食事をする。晴れた日の、のんびりとした撤収は気持ちがいい。湿った物を乾かしながら、フライシートを外した明るいテントで過ごすのは、この上なく幸せである。 問題は、濡れた靴。靴が濡れていると、靴下を替えても意味がない。しかし、濡れた靴下を履いていたくはない。結局、靴下を履かずに、素足に靴を履いて、走りながら乾かすことにする。どうせ濡れているのだから同じことだと、泥で汚れていた靴を水場でザブサブ洗った。ついでに、泥で汚れたズボンも洗って、これも走りながら乾かす。走行用のズボンは別だから、問題ない。11:26発。目的地は、温泉!

 岩手県側に下り、平地の西の山麓沿いを北上。ここも、97秋に走った快適な道。車もなく、かなりハイペースで走れる。途中、タイトな右コーナーがあって、ルンルンで倒し込んだら、路面の荒れた部分の衝撃でブレーキペダルがガツンと接地してしまった。その反動で振られて、カブはカーブの外側へ…。そこには、車1台分くらいのスペースがあったのだが、うすーく砂利が溜まっているのであった。
 うぉっ、止まりきれん!  うわぁわわわぁぁぁー  とっとっとっ…… ふぅっ。
 神業的なブレーキングで、タイヤをロックさせることなく、縁石ギリギリで止まる事ができた。物理的には不可能な現象に思える。とても自分のなし得た事とは思えず、“なに者かが守ってくれた” と極めて自己中心的な好意的解釈で、勝手に+な気分になる。 カブは荷が重いと、フレームのヨレやヨリ戻しが大きくなるので注意が必要なのだ。 97秋に通り過ぎてしまった、大沢温泉への分岐を左折。温度標識28度。やけに暑く感じる。

 12:30大沢温泉着(99km)。旅館が2つあったので、どちらにするか迷ったが、ツーリングマップルには山水閣と書かれていたので、そちらへ行く。しかし、湯治棟の露天風呂は中で一緒になっているような、よく分からない構造だった。 入浴料400円。受付では、入浴客にも関わらず、しっかりと横に付いて丁重に案内してくれる。実に湯治宿らしくて、嬉しい限り。しかし、これには困ってしまった。汚れた格好のときは、ぞんざいな対応の方が気が楽なのだ。靴がまだ乾いてなくて、当然足も湿っている。この事に気づかれると、お互いに気まずくなってしまう。タイミングを見計らって、視線が外れた瞬間に、素早くスリッパに履き替えた。靴を洗っておいたのは正解だった。泥と雨で汚れた靴は、かなりの悪臭を放つから、とても玄関先に置いてはおける物ではない。人間の生活の戻るには、いろいろ大変なのである。(笑)
建物の中は、やはり東北の湯治宿である。旅館でありながら、不思議な生活臭がある。見ているだけで、嬉しくなってしまう。雪が積もる頃、ここで過ごしてみたいという欲求に駆られる。 湯治棟内の廊下は迷路の様になっていて、なぜか隣の旅館のスリッパも混ざっている。 その突き当たりに、目指す大露天風呂はあった。前を清流が流れる、開放感あふれる風呂である。当たり前に混浴なのが、東北らしい。湯治客らしき人が数人入浴している。ちょっと熱めの湯。前を流れる川が気持ちいい。トンボがプールの様な湯船の上を飛んでいる。なぜか、巨大なオオムラサキも飛び回る。

清流が流れる 大沢温泉
時間の流れがゆったりとしていて、落ち着ける。山歩きの後の温泉は格別。特に、東北の山と温泉は素晴らしい。日程に余裕があったら、この宿で一泊するのだがなぁ……。 湯上がりに、売店を覗く。湯治宿の売店は面白いから、チェックせずにはいられない。土産物から、自炊用の食料品や日用品が売られている。こういう所にこそ、地方色が出るのである。 湯上がりに、ビックル120円。風呂から上がってスッキリすると、やっと人間の世界に戻った感じがする。 気力も充実。やってやろうじゃないかーとムヤミに闘志が湧く。

 

 13:15発。今日は、早池峰山麓まで行って、明日は早池峰山登山の予定。時間に余裕がありそうなので、想い出の地“遠野”へ行ってみようと思う。
感覚だけで東へ向かい、花巻市内を通過して遠野へ向かう。こういう所へ来ると、街というものが邪魔で、ひたすら避けて行くのだ。 14:25コンビニ前のグレ電でメールチェック&HP更新。テレカの減る早さに愕然とする。あまりの事に、も一度カードを入れて、残数を確認した。

 遠野に近づくに連れ、複雑な心境になる。遠野へ来たのは、随分と昔の事、バイクではなく、友人たちと訪れたのである。そのときの遠野の印象はとてもいいものだ。こういう場所を再訪するには、ある程度、勇気が必要。良い印象を壊してしまう可能性は高いし、伴って浮かんで来る、過去のイメージと対峙せねばならないからである。そんなこともあって、今まで遠野の再訪を避けていたのだ。そんな遠野へ足を踏み入れる。
標識通りに進むと、遠野の駅前に出た。すでに、記憶の中に存在する"遠野"とは別の遠野があった。過去の記憶と結びつく物も見当たらない。観光地図を眺めて、当時回ったコースを思い出そうとするが、正確なコースは思い出せない。確実な記憶がある"常堅寺のカッパ淵"へ行ってみることにする。途中に、伝承園というものがあり、気になったので入ってみた。入場料300円。すーっと、一回りして出てきてしまった。ほとんど立ち止まらなかった。そそくさと、カッパ淵へ。かつて、この辺りを歩いた記憶が甦る。辿るように、当時の諸々の出来事が浮かんでくる………

………………………
記憶の中の印象と、目の前世界は、かけ離れていた。周りの風景も違う感じだし、河童が棲むということを信じることができた清流には、茶色い水が流れている。   来ない方が良かったか…  うつろな喪失感………
陽炎に揺れるホップ畑が、見慣れない光景をつくっている。 「あぁ、ビールが飲みたい…、キンキンに冷えたビールが…」。ごくりと咽を鳴らして、カッパ淵を後にした。

 

 この先は山の中だから、買い出しをしておこうと思ったが、来た道を戻るのも嫌なので、街と離れる北へ進む。この先、店は無いかと思ったが、荒川高原への分岐近くの小さな店で買い出し。こういう店って、味があるので、店内をくまなく観察してしまい、時間が掛かってしまう。
標高を上げていくと、広々とした牧場が広がる。こんな所で、高原らしい風景に出会えるとは思っていなかった。囲むような穏やかな山々と、広い空が見えるだけ。夏の高原なれど、車も人も見当たらない。遠くに小さな牛集団が見えるだけ。ただ、空から誰かに見られている感じがした。一人占めしているのが、愉快爽快で、かなりハイな気分。早池峰山の周りだけ発達した雲が溜まっている。雷雨に遭わないことを願う。

遠野から 荒川高原を越えて 早池峰へ
 一旦、下の川沿いまで下りて、早池峰山への道を登り直す。下の方だけ整備されたダート。ここは、土日は車が通れないようだ。峠付近も駐車禁止だ。

 

 16:37河原坊キャンプ場着。干しながら走ったタオルがなくなっていた。 管理棟らしきものを探すが、そういうものは無いようである。残念ながら、ビールは手に入らないようだ。ブナ林に囲まれたキャンプ場というか天幕場は、2・3張、小さなテントがあるだけ。居心地は、良さそうだ。山深く、静かなのがgood。

 テントを張り終わって、メールを読んでいるときに声を掛けられた。今回は車だが、元はツーリングライダーの福岡の男性。同じく、明日、早池峰山に登るという。一年間南米を自転車ツーリングしてきて、春に帰国後、ふらふらしついでに、東北・北海道の山を登るという。放浪人生を歩む人ではなく、これからは定職に就いて普通に生活する意向の人である。
 今年の5月に『カブ魂』が紹介されたラジオ番組で、同じく紹介されていたB氏の南米旅のホームページを見ていたのだが、実はB氏は、A氏が南米で知り合った友人で、東北へ来る前にも会って来たという。こうなると、赤の他人の方が、友人よりも詳しい部分があったりして、異次元な会話が成り立つのである。A氏は、今回は車なので、ふんだんな酒や料理を御馳走になる。まるで、走る居酒屋。バイクツーリングらしからぬ、豪勢な宴となった。 A氏によると、TVを持参しているライダーは初めてだとか。二次電池を充電しているのも記憶にないそうだ。HPを更新している旅行者は、南米で2人、国内では初らしい。 ランタンの灯りを囲んで、楽しく話し込む。

 今日の事。明日の事。今日の温泉、昨日の温泉。今回の行程。福岡。東京。東北の山。日本の印象深い場所。日本の離島。日本を走る外国人チャリダー。九州の山。カセットガス・プリムス両用の韓国製ランタン&コンロ。韓国買い出しツアー。南米の生活費、日本の生活費。南米・世界放浪者の帰国後の生活。1年間の南米自転車旅行/費用130万円。アンデス山脈。パタゴニア。アコンカグア。マチュピチュ。イースター島。ガラパゴス。アマゾン。ウシュアイア。南米でのマス釣り。強盗。ゲリラ。内戦。入国審査。ウユニ塩湖、GPS。藤原寛一御夫妻。T野沢U子氏。現地語学学校。南米の女性。ペルーでの一般家庭ステイ。日本人旅行者、外国人旅行者。日本人チャリダー、外国人チャリダー。日本人ライダー、外国人ライダー。日本人移住者。スポンサー付きの旅行者。日本人宿。ブッシュキャンプ。過酷な標高5000mの峠越え。旅行時の肉体的な負荷。病気。アライテント。英語。スペイン語。関西弁。南米・自転車タイヤ事情。南米の料理。南米から見る日本。南米で思う日本。帰国して思う日本。などなど…

質問責めの傾向はあったけれど、実に楽しい夜を過ごせた。とっくに日付が変わっていたことに驚いたりしながらも、話は尽きなかった。 「明日にでも、ちょいと南米へ行ってみるか」と思えるほど、身近に感じた。

----ぶなの樹冠から ちらちらと星が覗く 早池峰の森----
眠ってしまうのが勿体ない…

走行208km 温泉代:400円 観光費:300円

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